COLUMNコラム

ICL の素材って何︖寿命って何年︖
【レンズの素材や寿命について眼科専門医が解説】

ICL は、角膜を削らない視力回復手術として日本だけではなく世界的にも注目されています。
眼の中に眼内レンズを挿入することで良好な視力を得られる ICL を受ける人口は年々増加傾向にあります。コンタクトレンズのように面倒な手入れも必要ありませんし、レンズを購入する手間も省けます。スポーツや趣味も裸眼で楽しむこともでき、最近では災害に備えて視力回復手術を検討する人も増えています。でも、挿入した眼内レンズがどのくらい持つのかレンズの寿命も気になるところ。日本で発売されている ICL は3種類に増え、患者様にとっては選択肢が増えたことになりますが、レンズの寿命や素材について知りたいという人も多いと思います。ここでは、ICL の素材や寿命についてついて解説したいと思います。

ICL の種類

ICL は、世界で約 60 万以上の症例実績があり、新しい眼内レンズも登場しています。日本国内では、アメリカ製、イギリス製、スイス製の 3 種類のレンズが発売されていますが、それぞれのレンズに特性があります。レンズの素材や性能に違いがある3つの ICL ですが、手術を検討する方にとっては、どのレンズを選択するかは重要な検討課題になると思います。
実績だけで言えば、スター社から発売されている ICL(アメリカ製)になりますが、一番早く発売されたレンズになるので、実績が多いのは当たりまえのこと。レンズの素材や寿命の違いは知りたい人も多いと思いますので、3つの ICL を比較してみましょう。

EVO+ICLレンズ プレミアム
眼内コンタクトレンズ
アイクリルレンズ
デザイン
メーカー STAAR 社
(アメリカ)
EyeOL 社
(イギリス)
WEYEZER 社
(スイス)
レンズタイプ 後房型レンズ 後房型レンズ 後房型レンズ
近視
遠視 × ×
乱視
老眼 老眼用レンズなし 老眼用レンズあり 老眼用レンズなし
レンズ素材 コラマー
(Collamer)
ハイブリッド
ハイドロフィリック
アクリル
ハイブリッド
ハイドロフィリック
アクリル
レンズの汚れ 付着しにくい 付着しにくい 付着しにくい
レンズの光学径 6.1mm 6.6mm 4.65~5.5mm
ハロー・グレア
緑内障の抑制
センターホールのみ

センターホール
ハプティクスホール

センターホールのみ
白内障の抑制
センターホールのみ

センターホール
マージンホール
プレミアムカーブ

センターホールのみ
レンズと
水晶体の距離
狭い 広い
プレミアムカーブ
狭い
レンズサイス 4サイズ 13サイズ 3サイズ

ICL の素材について

ICL レンズとしては、EVO+ICL レンズが最初に発売されましたが、当時はアクリル素材では今のような柔らかいレンズが作れなかったため、コラマーという素材を使用することで柔軟性のある柔らかいレンズが開発されました。白内障手術で使用するレンズにはアクリル素材が使用されていましたが、新しく採用されたコラマーという素材を文字って「Implantable Collamer Lens(コラマーレンズ)」という名称が商標登録され、略して ICL というネーミングでメーカーによるブランド化が進められました。本来の ICL は、「Implantable Contact Lens」の略になりますが、とても巧妙なネーミングが功を奏し、世界的にもコラマーレンズが ICL の多くを占めています。しかし、2014 年に登場したアイオーエル社(イギリス)のICL レンズは、水分含有量の高い「ハイブリッド・ハイドロフィリックアクリル」を採用し、ついにアクリル素材での新しい ICL レンズが登場しました。次に登場したスイス製のアイクリルレンズも「ハイブリッド・ハイドロフィリックアクリル」を使用しており、アクリル素材で制作された ICL レンズが当たり前の時代になってきました。ハイドロフィリック・アクリル素材は、白内障の眼内レンズにも使用されており、すでに眼内で使用されている実績がありますが、従来のアクリルレンズよりも水分含有量を多くしたハイブリッド素材を採用したことにより、タンパク質などの汚れがレンズに付着しにくい特性があり、長期的に安定した視機能を維持できることが確認されています。眼内レンズによる手術では、白内障手術が圧倒的に症例実績が多く、素材の安全性はすでに実証されている訳ですから、あえてコラマー素材を使用する必要性はなくなったと言えます。

ICL の寿命について

コラマー素材もハイブリッドハイドロフィリックアクリル素材も、柔らかく耐久性や生体適合性に優れた素材になりますので、目の中で破れる心配もなくメンテナンスや交換の必要もありません。レンズの寿命は人間の寿命よりも長いとされていますので、長期間に渡り眼内で安定した視力を維持することができます。レンズに汚れが付きにくい加工が施してありますので、クリアな視界も長期間維持することが可能です。

ICL の取り外しについて

ICL は、挿入した後でもレンズを取り外すことが可能です。ただし、取り外しの処置やレンズ交換は負担がかかる処置になるため、気軽に行える処置ではありません。可逆性の手術である特性は患者様の安心感につながることも事実ですが、取り除くことを前提としている訳ではないので、安易なイメージに繋がらることは避ける必要があります。

ICL の取り外しや交換の必要性

新しい見え方に慣れない

手術後は、視力が向上して今までとは違う見え方を手に入れることになります。ただし、長年見慣れてきた見え方が変化することになるので、稀なケースではありますが改善した新しい見え方に順応できない可能性もあります。視力が 1.5 に改善して、良く見えるという印象があっても、良く見えることが生活に支障をきたす場合は、レンズを取り除くことを検討します。

何らかの病気が見つかった場合

年を重ねると筋力や体力が衰えるように、40 歳を過ぎた頃から目にも老化現象が始まります。
目の老化現象として最初に思い浮かぶのは老眼だと思いますが、万一何らかの病気が認められた際は、レンズを取り除いて治療を行う必要がある場合も・・・。ICL はレンズを取り出すことで、他の人と同じように目の病気の治療を受けることができます。実際には、白内障手術を受ける時以外でレンズを取り外すことは、ほとんどありません。

老眼でピント調節機能が衰えた場合

本来、近くを見る時は水晶体が厚くなり、遠くを見る時は水晶体が薄くなってピントを調節しています。加齢によって水晶体の柔軟性が失われてくると、厚さを思うように変えられなってきます。このピント調節機能の衰えが老眼の原因です。初期のころは手元が見えづらくなってきますが、徐々に遠くも見えづらくなってきます。老眼に対応した ICL レンズも登場していますので、年齢に応じたレンズを選択することも出来るようになりましたが、老眼用のレンズが登場する前に手術を受けられた方は、老眼用レンズに入替えることも可能です。

白内障手術を受ける時

白内障は、加齢によって水晶体が濁ってくる目の病気です。お薬では治療できないので、白内障を治療するには手術しか方法はありません。白内障手術は、濁った水晶体と眼内レンズを入替える手術になりますが、水晶体の前に ICL レンズが挿入されていると手術ができないため、先に ICL レンズを取り除いてから白内障手術を行います。ICL レンズを取り出すことで、従来通り白内障手術を受けることができますので心配はいりません。

まとめ

ICL で使用するレンズにも種類があることと、レンズ素材の移り変わりについて紹介しましたが、コラマー素材のレンズよりも眼内レンズとしての安全性が確立されているアクリル素材が使用できるようになったことは、患者様にとって大きな安心材料になると思います。世界的にみても、眼内に挿入するレンズに使用されている素材の 99.9%はアクリル素材が使用されていますので、安全性はコラマーレンズよりも確立されています。アクリル製のレンズは 50 年以上経過しても目の中で問題なく機能することが証明されていますので、ハイブリッドアクリルを使用した ICL が主流になると思われます。また、レンズを取り除くことができる可逆性の特性については、万一のトラブルが起きた時や将来的に目の病気が発症した時に役立つメリットがありますが、取り外すことを前提としていないことを理解しておく必要があります。取り除くことで元に戻せる特性は、ICL が持つ安心材料の1つとしてお考えいただければと思います。