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【ICLの基礎知識】レンズの種類や性能、治療法を解説

近視や遠視、乱視、老眼などの屈折異常を治療するには、レーシック手術やICLという選択肢があります。メガネやコンタクトレンズの煩わしさから解放されたいと願う方によっては、とても有効な選択肢だと思いますが、眼の手術になりますので正しい知識をもっていただくことが大切です。このページではICL(眼内コンタクトレンズ)に関する基礎知識からメリット・デメリットまで幅広く解説します。

視力回復手術

近視、遠視、乱視のことを屈折異常と言い、屈折異常が全くない状態を正視と言います。正視は、入ってきた光が角膜や水晶体で屈折されて網膜にピントが合っている状態ですが、近視は網膜よりも手前、遠視は網膜より後ろで焦点を結んでいる状態です。乱視は、焦点が複数存在することで、物が歪んで見えたり、二重に見えたりする状態になります。

<近視>


角膜や水晶体はレンズの役割をしており、入ってきた光を屈折させて網膜に届ける働きがあります。しかし、この屈折力(光を曲げる力)が強いと焦点が網膜よりも手前で結ばれてしまいます。また、眼球の長さが長い(奥行きが長い)と焦点が網膜よりも手前で結んでしまうため近視の症状が現れます。近視の方は、眼球がラグビーボールのように前後に長い特徴があり、近くが見えやすく、遠くは見えにくい状態になります。

<遠視>


角膜や水晶体の屈折力(光を曲げる力)が弱いと網膜よりも後ろで焦点を結んでしまいます。また、眼球の長さが短い(奥行きが短い)と焦点が網膜よりも後ろで結んでしまうため遠視の症状が現れます。遠視は、近くが見えにくいが遠くは見えるというイメージを持っている方が多いようですが、実は近くも遠くもピントが合いにくいのが遠視の症状になります。遠くが見えやすいのは、遠視が軽度な状態に限られます。

<乱視>


乱視とは、レンズの役割を担っている角膜や水晶体が歪んでいるために、本来は1つに結ばれるはずの焦点が複数できてしまう状態のことです。乱視の見え方としては、物が歪んで見えたり、二重に見えたりしますが、近視や遠視がある眼に乱視が加わると、さらに見えづらさが増すことになります。乱視の人は、角膜や水晶体の歪みによって、縦方向と横方向の屈折力に差が生じてしまい、複数の焦点が出来てしまうという訳です。

<老眼:調節力の異状>


老眼は、調節力の異状で起こる症状になります。若い頃は、レンズの役割を担う水晶体に柔軟性があり、遠くを見る時は薄くなり、近くを見る時は厚くなってピント調節を行っています。しかし、加齢とともに水晶体の柔軟性が失われてくると、若い頃のようにピント調節ができなくなり、老眼の症状が現れます。眼は、近くを見る時は緊張状態にあり、遠くを見る時はリラックス状態にありますので、老眼の初期症状では手元が見えづらくなりますが、徐々に遠くも見えづらくなってきます。老眼は、一般的に40歳を過ぎた頃から自覚するようになると言われていますが、パソコンやスマホの普及が進む現代社会では、「スマホ老眼」という言葉もあるように、老眼が始まる時期が若年化してきています。

ICLについて

まず、ICLについて、誤解されている方が多く見受けられますので、その点について解説しておきます。ICLとは、水晶体を残したまま手術をすることを意味します。IOLは「Intra Ocular Lens」の略で眼内に挿入するレンズの総称になります。眼内にレンズを使用する手術には、ICL以外にも白内障手術がありますが、白内障手術で使用するレンズなども含めて眼内に挿入するレンズのことをIOLと言います。ICLは、水晶体を残したまま眼内レンズを挿入する手術になりますので、Phakic IOLと言いますが、ICLに使用する眼内レンズは、レンズを挿入する位置によって、前房型レンズと後房型レンズの2つに分類されます。前房型レンズは、角膜と虹彩の間にレンズを挿入しますが、後房型レンズは虹彩と水晶体の間にレンズを挿入します。前房型レンズは、外から見てレンズが挿入されていることが解りますが、後房型レンズは虹彩の後にレンズが入っているため、レンズが挿入されていることが解りません。審美性の面で後房型レンズを選ばれる方が多く、現在は後房型レンズが主流になっています。

後房型レンズに関する勘違い!

後房型レンズには、ICLレンズがありますが、ICLとIOLが似ていることから、ICLのことをICL手術と勘違いされている方が多いようです。しかし、後房型レンズには種類があり、ICLレンズだけではありませんので、ここでは、正しい知識を身に着けていただければと思います。日本国内で主に使用されている後房型レンズには、ICLレンズとプレミアム眼内コンタクトレンズの2種類があります。(2021年時点)ICLレンズは、Implantable Collamer Lensの略で、コラマーという素材で作られていますので、業界内ではコラマーレンズとも呼ばれています。ICLレンズを発売するレンズメーカーが、レンズの素材に特許を取ってブランド化を進めたため、レンズの総称であるIOLとICLを勘違いさせる要因になっているのではないかと思いますが、ICLレンズはICL手術で使用される眼内レンズの1つであり、実際には複数の後房型レンズがあることを知っていただき、正しい知識を持って手術を検討していただきたいと思います。世界的に普及している後房型レンズには3つの種類があり、それぞれに特徴がありますので、手術を検討する際は、各レンズの性能についても正しい知識を持っておくことが大切です。

<後房型レンズには3つの種類があります>

日本国内では、2種類のレンズが使用されていますが、世界的に見るとICL手術(眼内コンタクトレンズ)で使用するレンズには3つの種類があります。それぞれに素材の違いや特徴がありますが、当院では、ICLレンズとプレミアム眼内コンタクトレンズの2つのレンズを導入しています。ICLレンズは最初に発売されたため、多くの症例実績がありますが、後から発売されたプレミアム眼内コンタクトレンズやEyecrylレンズは、多くの機能が追加されており、レンズの性能だけを見れば改良が重ねられて登場したレンズであると言えます。以下に、それぞれのレンズについて簡単に紹介します。

ICLレンズ(STAAR社:アメリカ)

ICLレンズは、コラマー(Collamer)という親水性の良い素材で作られています。最初は、レンズの中心にホールはありませんでしたが、房水の循環経路を確保するためのホールタイプが登場したことで、手術前に行っていた虹彩切開術が不要となりました。また、レンズの光学径が6.1mmに拡大されたことで、手術後のハロー・グレアの発生が抑えられるようになりました。

合併症の抑制を考えた新しいICLレンズ
プレミアム眼内コンタクトレンズ(EyeOL社:イギリス)

プレミアム眼内コンタクトレンズは、眼内で長期的に視機能を維持することができる”ハイブリッド・ハイドロフィリック・アクリル”が使用されています。ハイドロフィリック・アクリル素材は、水分含有量を多くしたハイブリッド素材で、タンパク質などの汚れがレンズに付着しにくい特性があります。また、レンズの光学径が6.6mmと大きく、ハロー・グレアの発生をより強く抑制します。レンズには7つのホールが設置されており、房水の循環経路の確保だけでなく、白内障や緑内障の発生も抑制する効果が追加されています。

Eyecrylレンズ(WEYEZER社:スイス)

Eyecrylレンズは、プレミアム眼内コンタクトレンズと同様の“ハイブリッド・ハイドロフィリック・アクリル”が使用されています。水分含有量を多くしたハイブリッド素材で、タンパク質などの汚れがレンズに付着しにくい特性があります。レンズの性能としては、ICLレンズと変わりませんが、レンズの光学径が5mmと小さいため、他の後房型レンズよりも、ハロー・グレアが発生する可能性が高いデメリットがあり、当院では導入していません。

ICL レンズの性能
レンズ名 EVO+ICL レンズ 合併症の抑制を考えた
新しいICLレンズ

プレミアム眼内コンタクトレンズ
アイクリルレンズ
レンズデザイン
メーカー STAAR社
(アメリカ)
EyeOL社
(イギリス)
WEYEZER社
(スイス)
レンズタイプ 後房型レンズ 後房型レンズ 後房型レンズ
近視
遠視 × ×
乱視
老眼 老眼用レンズなし 老眼対応レンズあり 老眼用レンズなし
レンズ素材 コラマー
(Collamer)
ハイブリッド
ハイドロフィリックアクリル
ハイブリッド
ハイドロフィリックアクリル
レンズの汚れ 付着しにくい 付着しにくい 付着しにくい
レンズの光学径 6.1mm 6.6mm 4.65〜5.5mm
ハロー・グレア
緑内障の抑制
センターホールのみ

緑内障を抑制する
ハプティクスホールあり

センターホールのみ
白内障の抑制
センターホールのみ

白内障を抑制する
マージンホールと
プレミアムカーブを採用

センターホールのみ
レンズと水晶体との距離 狭い 広い
プレミアムカーブの採用により
白内障の抑制効果あり
狭い
レンズのサイズ 6サイズ 13サイズ 3サイズ
レンズの安定
レンズのサイズが豊富で
適切なサイズのレンズが選べる

レンズ素材の転換期を迎えています

現在、ICL手術で使用されるレンズは、後房型レンズが主流であると説明しましたが、日本国内で流通(2021年2月の時点)している後房型レンズは2種類あります。それぞれのレンズが持つ性能には違いがありますが、一番大きく違う点はレンズの素材になります。ICLレンズは、Collamer(コラマー)という素材が使用されていますが、実は眼内レンズの大半はアクリルという素材が使用されています。ICL手術よりも、はるかに症例実績が多い白内障手術で使用されるレンズにはアクリルが用いられていますので、眼内での安全性については、アクリル素材が圧倒的な実績を残しているのです。しかし、白内障手術には適しているアクリル素材であっても、柔らかい特性を持ったレンズを作るのに限界があったため、コラマーという素材が注目されました。このコラマーを使うことで、柔らかいグミのような質感をもったICLレンズが登場しました。しかし、最近になって水分含有量を多くしたハイブリッド・ハイドロフィリック・アクリルという新素材が開発され、Collamer(コラマー)を使わなくても柔らかい特性を持つレンズが作れるようになり、プレミアム眼内コンタクトレンズやEyecrylレンズのような新しい後房型レンズが登場しています。ハイブリッドアクリルは、アクリル素材の持つ安全性を維持したまま、柔らかい性質のレンズを作ることができますので、すでに海外ではハイブリッド・ハイドロフィリック・アクリル素材を使用した後房型レンズの普及が進んでいます。すでに、プレミアム眼内コンタクトレンズ以外にも新しいレンズが開発されていますので、Collamer(コラマー)からハイブリッドアクリルへ素材の転換期を迎えていると言えます。Collamer(コラマー)を使用したICLレンズは、素材に特許を取得し、メーカーによるブランド化が進められたため、レンズの費用が高額になりますが、ハイブリッド・ハイドロフィリック・アクリル素材が台頭してきたことで、レンズの費用も抑えられ、手術が受けやすくなってくると思われます。

素材の違いが手術の結果に影響することはありません

ICL手術で使用されるレンズの素材には、コラマー素材とハイブリッド・ハイドロフィリック・アクリル素材の2種類が使用されていることを紹介しましたが、素材の違いによって手術の結果が変わることはありません。すでに、海外の眼科学会において、どちらの素材を使用しても施術の結果に有意差が無いことは報告されていますので、レンズの素材としては、どちらを選択しても問題ないことが証明されています。また、世界的な眼科雑誌である「Journal of Refractive Surgery 2021年1月号」にも臨床研究の結果報告がなされており、術後の経過に有意差が無いことが証明されています。この「Journal of Refractive Surgery」は、世界トップ5に入る実績のある眼科雑誌であり、世界の眼科医が信頼を寄せる多くの論文が掲載されています。もちろん、手術後の視力だけではなく、手術後の経過にも有意差はありませんので、手術を受けられる患者様にとっては、レンズの選択肢が増えたことになります。

レンズを選ぶ時は、どこに注目する?

現在、日本国内でICL手術に使用されているレンズには、ICLレンズとプレミアム眼内コンタクトレンズがあることはご理解いただけたと思いますが、「どちらのレンズを選らぶべきか?」「レンズを選ぶときの基準は?」といったご相談が多く寄せられています。すでに、どちらのレンズを選んでも手術の結果に変わりがないことは報告されていますので、その点は心配する必要はないと考えます。ただ、変わりがないとなると、レンズを選ぶための基準というものが必要になってくると思います。どちらのレンズを使用しても、手術の方法や術後の結果に大きな差はありませんので、レンズの性能や治療の目的、合併症の抑制機能、ご予算などを加味して、自分に合ったレンズを選択することが望ましいと思います。また、40歳以上の方は、近視を治すことで老眼を自覚するようになることが考えられますので、老眼に対応した遠近両用レンズがあるプレミアム眼内コンタクトレンズを選択することが望ましいと思います。近い将来、ICLレンズにも老眼用のレンズが登場してくると思いますが、手術を検討する上で、どんな性能を持っているのかを確認する必要があります。

フェイキックレンズの性能について

ICL手術で使用される後房型レンズは、横幅が12mm〜13mm程度、縦幅が7mm程のサイズになります。この小さなレンズの中には、手術の安全性や術後の合併症を抑えるために多くの工夫が施されています。ここでは、日本国内で流通している2つの眼内レンズが持つ性能についてご紹介したいと思います。

ICLレンズ

ICLレンズは、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)とコラーゲンの共重合体素材「コラマー(Collamer)」という素材で作られています。コラマーは、柔らかい性質を持っていて、タンパク質などの汚れが付着しにくい特性があり、生体適合性の良い素材であると言えます。眼内レンズを使用した手術は、白内障手術が大半でしたが、白内障手術で使用するレンズにはアクリル素材が使用されていました。白内障は、年を重ねれば誰もがなる眼の病気になりますので、眼の手術の中でも圧倒的に症例数が多く、アクリル素材の安全性はすでに実証されていましたが、水晶体を残したまま眼内レンズを挿入するICL手術には、当時のアクリル素材は適していませんでした。ICL手術で使用するレンズにコラマーという素材を採用したことで、柔らかい性質のレンズ作成が可能となり、ICLの普及が始まりました。コラマーという素材を採用したICLレンズは特許が取得され、2003年にはヨーロッパでCEマークを取得し、2005年にアメリカのFDAで認可されています。日本では、2010年に厚生労働省の認可を受け、日本国内でもICL手術が開始されました。現在は70ヶ国で手術が行われているICL手術は、レーシックと並ぶ屈折矯正手術として認知されています。

<ホールタイプレンズの登場>

ICLレンズは、虹彩と水晶体の間にレンズを挿入するため、眼の中を流れる房水の循環経路を狭くしてしまうことが課題でした。そのため、手術を受ける際はレーザーによる虹彩切開術を必ず行う必要がありました。これは、房水の流れが悪くなると、眼圧が高くなって緑内障を発生する恐れがあったからです。レーザーによる虹彩切開術を受けることは、患者様にとって負担になっていましたが、2014年にレンズの光学部分(物を見る部分)の中心に0.36mmのホール(穴)が設置されたホールタイプのICLレンズが開発され、今まで必要だった虹彩切開術が不要となり、患者様の負担が軽減されました。レンズの中心に設けられたホールは、視力に影響を与えませんので心配は必要ありません。また、虹彩切開術で開けた穴は、時間の経過とともに塞がってしまうことがあり、その場合は改めて虹彩に穴を開ける処置が必要でしたが、レンズに設置されたホールによって、そういった術後の心配も軽減されています。

<光学部の拡大>

ICLレンズは、レンズの光学部分(物を見る部分)に改良が施され、2016年にEVO+ICLレンズとしてバージョンアップを果たしました。光学径を6.1mmに拡大したことで、手術後のハロー・グレアの発生を抑制する効果が期待でき、夜間視機能の向上に大きな成果を上げています。人間の眼は、瞳孔の収縮によって光の入る量を調節しています。明所で瞳孔が小さくなり、暗所では瞳孔が大きくなります。このため、瞳孔が大きくなる暗い所では、光学部よりも瞳孔が広がってしまうとレンズの縁が露出してしまい、光が反射して眩しい症状が現れるケースがありました。レンズの光学径を大きくしたことで、こういったトラブルも抑制され、暗い所でも良好な視力が得られます。

プレミアム眼内コンタクトレンズ
合併症の抑制を考えた新しい ICL レンズ

プレミアム眼内コンタクトレンズは、2014年にEyeOL社(イギリス)によって発売が開始されましたが、私どものクリニックでは、日本での先行導入施設として6年前から使用しています。それまでは、近視や乱視の治療にしか対応していなかったICL手術でしたが、プレミアム眼内コンタクトレンズには遠視や老眼にも対応のレンズがあり、幅広い年代の方に適応できるのも大きな特徴です。プレミアム眼内コンタクトレンズは、ICLレンズよりも後から登場した後房型レンズになりますので、症例実績においてはICLレンズには及びませんが、後から発売された強みを活かし、レンズの持つ性能の面では多くの改善が施され、新たな機能も追加されています。下記のように、見え方だけではなく、多岐に渡る改良によって合併症の発症を抑える性能も追加されて登場したのがプレミアム眼内コンタクトレンズです。

<素材はハイブリッド・ハイドロフィリック・アクリル>

プレミアム眼内コンタクトレンズは、ハイブリッド・ハイドロフィリック・アクリルというハイブリッド素材で作られています。従来のアクリル素材よりも水分含有量が多く、コラマーと同様に、柔らかい性質を持ったレンズの作成を可能とした素材になります。アクリル素材自体は、白内障手術で使用される眼内レンズに用いられていますので、眼内での安全性や生体適合性は実証済の素材になります。ハイブリッド・ハイドロフィリック・アクリルも、タンパク質などの汚れが付着しにくい特性があり、長期的に安定した視機能を維持することができます。

<瞳孔径の影響を受けない6.6mmのレンズ光学径>

ICLレンズの6.1mmに対し、プレミアム眼内コンタクトレンズの光学径は6.6mmと広く設計されています。光学部分の改良によって、手術後のハロー・グレアの発生をより強力に抑制し、夜間視機能の更なる向上に大きな成果を上げています。レンズの光学部が大きくなっても、眼のサイズに合わせた13ものレンズサイズがありので、その人の眼の大きさに適したレンズをオーダーすることができます。

<房水の循環経路を確保する7つのホールデザイン>

プレミアム眼内コンタクトレンズには、眼内を流れる房水の循環経路を確保するために、7つのホールが設置されています。ICLレンズと同様にレーザーによる虹彩切開術は不要になりますが、さらに6つのホールが追加されたことで、房水の循環経路の確保だけではなく、白内障や緑内障の発症を予防することができますので、ICL手術の安全性向上に貢献する改良であると言っても過言ではありません。

<白内障の発症リスクを抑制するプレミアムカーブ>

ICL手術では、レンズと水晶体の距離が重要なポイントになります。レンズの形状がフラットなICLレンズは水晶体とレンズとの距離が近くなります。一方で、水晶体との距離を確保する「プレミアムカーブ」を採用したプレミアム眼内コンタクトレンズは、水晶体とレンズとの距離が広く確保できますので、白内障の発症リスクを軽減する効果が期待できます。このレンズデザインは、視力の回復だけではなく、手術後の安全性にも配慮した新しいデザインになります。

<6つのハプティクスによるレンズの安定性>

プレミアム眼内コンタクトレンズは、眼内での安定性を確保するために、6つのハプティクス(支持部)が着けられています。この6つのハプティクスによって、レンズの安定性が向上し、個々眼に適したレンズサイズでオーダーできるカスタムレンズのメリットを一層活かすことができます。また、乱視軸を入れ込む乱視用レンズの安定性を維持するために、大きな役割を果たしています。

<乱視用レンズは乱視軸に関係なく水平挿入が可能>

プレミアム眼内コンタクトレンズは、乱視用のレンズもご用意することができますので、乱視の強い方でも手術を受けていただけます。プレミアム眼内コンタクトレンズの乱視用レンズは、乱視軸をレンズ内にカスタマイズするため、どんな乱視軸に対してもレンズを水平に挿入することができます。レンズを水平に挿入できるということは、レンズを常に理想的な状態に置くことができるため、レンズの安定性を確保することができます。また、眼内を流れる房水の通り道を一定化することができますので、レンズの傾きに左右されることはありません。この改良は、人間が本来持っている生理的な機能に配慮されていますので、個人的にも非常に大きなメリットであると思っています。

<不正乱視の増加を防ぐエクセレントクリアサーフェイス>

プレミアム眼内コンタクトレンズは、レンズの表面構造をスムーズにする「エクセレントクリアサーフェイス」という技術が採用されています。この技術によって、見え方の質が向上し、不正乱視の発生を抑制効果が期待できます。コラマー素材よりもレンズの表面がクリアでスムーズであるとESCRS(ヨーロッパ白内障屈折矯正学会)で報告されていますので、ハイブリッド・ハイドロフィリック・アクリルという素材の有効性が証明されたとも言えます。

<3焦点レンズによる老眼の治療>

プレミアム眼内コンタクトレンズには、3焦点の機能を持ったレンズがありますので、近視・遠視・乱視だけではなく、老眼の治療も可能としています。老眼は、40歳を過ぎた頃から自覚すると言われていますが、近視の方は近くが見えやすい眼をしているため、老眼を自覚する時期が遅くなる傾向があります。これを「近視の利点」と言いますが、自覚症状がなくても、年齢とともにピント調節機能は衰えています。この年代の方が、ICLで近視を治療すると、遠くは見えるようになりますが、老眼による手元の見づらさを自覚してしまうことになります。あたかもICL手術を受けたことで、老眼を発生したように思うかもしれませんが、これは自覚していなかった老眼を自覚するようになっただけで、手術によって起こったトラブルではありません。このため、40歳以降の方は近視の治療が適応とならないケースが多く、老眼鏡を掛けることを検討するしかありませんでしたが、3焦点プレミアム眼内コンタクトレンズが登場したことで、老眼も治療できるようになりました。ちなみに、乱視の強い方には乱視用のレンズもありますので、老眼と同時に乱視の治療も可能です。

知らない性能が沢山あったと思います。


ICL手術で使用するレンズにも種類があることを知っていただいたと思いますが、小さなレンズの中に非常に多くの性能が組み込まれていることも理解いただけたと思います。また、レンズの発売時期によっても違いがあることがお解りいただいたと思いますが、ほんの少しの違いでも、それぞれに役割や目的がありますので、手術を検討されるのであれば、正確な情報を持っていただくことが大切だと考えます。あまり頭でっかちになりすぎるのも良くありませんが、参考にしていただければと思います。

ICL手術のメリット・デメリット

近視や遠視、乱視、老眼といった屈折異常を矯正するには、メガネやコンタクトレンズといったアイテムに頼ることもできますが、ICL手術やレーシック手術などの屈折矯正手術は、裸眼での生活を手に入れることができますので、その部分においては大きなメリットに感じる方も多いと思います。スポーツや旅行などを裸眼で楽しめるということは、眼の悪かった人にとっては憧れに近いと思いますし、屈折矯正手術が多くの人の役に立って行くことを、とても嬉しく思っています。しかし、医療行為である以上はリスクが全く無いという訳にはいきません。手術を検討されている方には、メリットだけではなくデメリットについても理解した上で、手術を受けるかの決断をしていただくことが大切だと考えます。下記に、ICL手術に関係する主なメリットとデメリットについて紹介しますので、参考にしていただければと思います。

ICLによる合併症について

ICL手術も医療行為である以上は、合併症が起こるリスクをゼロにすることはできません。これは、どんなに熟練した医師が、慎重に慎重を重ねて手術を行ったとしても、ゼロすることは不可能です。ただ、一方では合併症が必ず起こるという訳でもありません。合併症といっても、一時的な症状や軽度なものもありますので、仮に起こったとしても適切な処置で改善するものもありますし、時間の経過とともに軽快するものもあります。ここでは、ICL手術によって起こる可能性のある合併症について紹介しますので、手術を検討されている方は、ひとつの知識として知っておくと良いでしょう。

<感染症>

感染症は、合併症の中で一番怖いものであることは間違いありません。医師の立場でも絶対に起こしたくない合併症になります。当院では、外科的手術にも対応できるクリーンルームを完備しており、手術で使用する材料も可能な限りディスポーザブル(使い捨て)を使用しています。おかげで、感染症が起こったことはありませんが、全体的に見るとその発症率は0.02%程度であると言われています。数字だけ見れば、非常に稀なケースだと感じられると思いますが、最も注意しなければならない合併症であると言えます。病院側が取り組むべき清潔環境の徹底と患者様が取り組む術後の生活制限の2つの要素が感染症防止のポイントになります。

<充血、痒み、痛み、腫れ>

手術では、まぶたを固定する開瞼器という器具を装着しますので、手術後は腫れぼったい感じがすることがあります。また、数ミリではあるものの角膜を切開しますので、炎症に伴う充血や痛み、痒みといった症状が現れることがあります。時間の経過とともに解消していきますが、1週間程度は不快感がある場合があります。

<視力の安定>

手術後の炎症や角膜の濁りによって、視界がぼやけて見えることがあります。また、日によって視力が変動することがありますが、視力が安定するまでには個人差があり、1ヵ月〜3ヵ月かかることもあります。

<度数の変化>

ICL手術は、視力を矯正することが目的ですが、近視や乱視の進行を止める手術ではありません。そのため、職場環境や生活環境などによって近視や乱視が進行することがあります。これは、合併症に該当する症状ではありませんが、自分が置かれている環境と手術の目的を理解しておくことが必要です。

<レンズの偏位(レンズのズレ)>

稀にではありますが、挿入した眼内レンズが偏位する(ズレてしまう)ことがあります。原因としては、レンズのサイズが合っていなかったケースと外部からの衝撃などが考えられます。もし、レンズの偏位が起こった場合は、レンズを固定し直す再手術が必要になります。

<ハロー・グレア>

ハローやグレアという症状は手術に関係なく見える症状でもあります。手術を受けていない方でも、「夜間に街灯を見た時
に光が散乱しているように見える「」車のヘッドライトがギラギラと眩しく見える」「光の周辺に薄い輪のような光が見える」「車のテールランプが尾を引くように見える」といった経験がある人も少なくないと思います。ただし、眼の手術によって、
こういった症状が現れることがあり、特に夜間視力に影響する症状になります。今まで見えていたものが、視力が良くなったことで気になるようになったというケースもありますが、ほとんどの場合は時間の経過とともに気にならなくなります。

<白内障>

眼の手術には、白内障が起こるリスクが必ず付きまといます。プレミアム眼内コンタクトレンズのように水晶体との距離を離すなどの新しいデザインが登場していますが、全体的に見ると白内障の発症率は0.4%程度と言われています。若い方の場合は、一時的に水晶体に濁りが見られても直ぐに改善するケースもありますが、白内障を発生した場合は白内障手術で改善するしか方法がありません。

<緑内障/眼圧上昇/高眼圧>

ICL手術後に、眼圧が上昇することがあります。眼圧が高くなることで緑内障を引き起こす可能性もありますので、手術後に行う眼圧測定で数値が高い場合は、点眼、内服、点滴など適切な処置を行います。

<近視が進行する長眼軸眼>

成人の眼軸長(眼球の直径)は、24mm程が平均になりますが、近視の強い方は眼球が前後に長くなります。よくラグビーボールに例えられることがありますが、この眼軸長が26.5mm以上ある方で、30歳以降も伸び続けて近視が進行し続けることが報告されています。眼軸長が30mmを超えることもありますが、適応検査の時点で問題がない場合は、これを予測することはできません。

<角膜内皮細胞の減少>

角膜内皮細胞は角膜の水分を汲み出して角膜を透明に維持するポンプの働きを担っています。加齢やコンタクトレンズの使用によっても少しずつ減少しますが、再生しない細胞になるため一定数を切ると角膜を透明に保てなくなります。ICL手術に限らず、眼の手術によって角膜内皮細胞は少なからず減少します。ICL手術時には、約3%の細胞が減少すると言われていますが、手術前には角膜内皮細胞数を調べる検査を行い、基準値を下回る場合は手術ができません。

具体的に相談することが大切です

冨田実アイクリニック銀座
院長 冨田 実
医学博士 / 眼科専門医
後房型レンズ上級指導医ライセンス取得
ここでは、主な合併症について紹介しましたが、これ以外にも個々の眼の状態によって起こり得る事象は様々あると思います。先にも述べましたが、合併症は必ず起こるものではありませんし、医師も合併症が起こらないように手術を行っていますので、過度に心配する必要もないと考えますが、手術を検討する上で、知っておいていただきたい内容になります。最近では、インターネット上で様々な情報を見ることができますが、必ずしも全ての情報が正しいわけではありません。また、タレントさんなどの著名人も手術を受けられていますが、個別に発信している情報が全ての方に当てはまる訳でもありません。視力回復手術に興味のある方は、実際に自分の眼の状態を確認して、具体的な相談をすることで、自分に合った治療法を見つけてください。