ICL(Implantable Contact Lens)は、目の中にレンズを挿入することで近視や乱視を治療する視力回復手術です。レーシックのように角膜を削らないため、角膜の厚さに左右されず、強度近視の方でも手術を受けることができます。本記事では、眼科専門医・冨田実医師が、ICLの仕組み、特徴、歴史、レンズの種類までを基礎から丁寧に解説します。

— 3-LINE SUMMARY

ICLを3行で理解する

▶ 関連動画 ICLとは何かを、冨田実医師が動画で分かりやすく解説しています。
  • ICLは目の中(虹彩と水晶体の間)に小さなレンズを挿入して、近視・乱視を矯正する視力回復手術です
  • 角膜を削らないため、強度近視や角膜が薄い方にも対応でき、レンズの取り出しも可能です
  • 1986年に最初のレンズが開発され、世界で100万症例以上の実績がある確立された手術です

ICLとは何か?

ICLとは、Implantable Contact Lens(インプランタブル・コンタクト・レンズ)の略称で、日本語では「眼内コンタクトレンズ」と呼ばれます。コンタクトレンズが目の表面に装着するのに対して、ICLは目の中に直接レンズを埋め込むのが大きな違いです。

正式な医学用語では「有水晶体眼内レンズ挿入術」と呼ばれます。これは、もともとの水晶体(カメラのレンズに相当する組織)を残したまま、眼内に追加でレンズを挿入する手術であることを意味しています。同じく目の中にレンズを入れる白内障手術が水晶体を取り除いて人工レンズに置き換えるのとは異なります。

世界では100万症例以上の実績があり、視力回復手術として確立された治療法です。日本国内でも年々症例数が増えており、特に強度近視や角膜が薄くレーシックを受けられない方の選択肢として広がっています。

ICLレンズと目の断面図

ICLの仕組み|レンズを挿入する位置

ICLレンズは、虹彩(茶目の部分)と水晶体の間に挿入されます。この位置は「後房(こうぼう)」と呼ばれる空間で、目の中で水晶体のすぐ前にあたります。

レンズを挿入するために、角膜の端(黒目と白目の境目あたり)に約2.5mmの小さな切開創を作ります。この切開創からレンズを丸めた状態で挿入し、目の中で広げて虹彩と水晶体の間に固定します。手術自体は両眼でも数分で完了し、切開創は縫合せずとも自然に閉じるため、患者様の負担も少ない手術です。

「フェイキックIOL」との関係

ICLについて調べると「Phakic IOL(フェイキックIOL)」という言葉を見かけることがあります。この2つの用語の関係を整理しましょう。

Phakic(フェイキック)とは「有水晶体」を意味する言葉で、水晶体を残したままの状態を指します。IOLはIntra Ocular Lens(眼内レンズ)の略で、目の中に挿入するレンズの総称です。つまり、Phakic IOLは「水晶体を残したまま目の中に挿入するレンズ」全般を指す広い概念で、ICLはその中の1つということになります。

Phakic IOLは、レンズを挿入する位置によって大きく2種類に分かれます。

ICLの3つの大きな特徴

ICLが視力回復手術として選ばれる理由は、他の手術にはない以下の特徴があるからです。

1. 角膜を削らないから強度近視にも対応できる

ICL最大の特徴は、角膜(黒目部分)に手を加えないことです。レーシックは角膜を削って屈折力を調整する手術のため、もともと角膜が薄い方や、削る量が多くなる強度近視の方には適応できないケースがあります。一方、ICLは目の中にレンズを追加するだけなので、角膜の厚みに左右されません。レーシックでは対応が難しいとされる-10D以上の強度近視の方でも、ICLなら手術を受けられる可能性が高くなります。

2. レンズの取り出しが可能(可逆性)

角膜を削るレーシックは、一度行うと元の状態に戻すことはできません。一方、ICLはレンズを取り出すことで元の状態に戻せるのが大きな特徴です。将来、白内障など他の目の手術が必要になった場合や、生活環境の変化で見え方を調整したい場合にも、柔軟に対応できる手術といえます。

3. 老眼・遠視にも対応する次世代モデル

従来のICLは近視・乱視の矯正が中心でしたが、近年では3焦点モデルのプレミアムICLが登場し、老眼や遠視の改善にも対応できるようになりました。これにより、40歳以降の老眼世代の方にもICLが視力回復の選択肢として広がっています。

ICLレンズの正面図と側面図

ICLの歴史|1986年から続く視力回復手術

ICLの最初のレンズが開発されたのは1986年のことです。今から約40年前にさかのぼる、長い歴史を持つ視力回復手術です。

ICLレンズは年々改良が重ねられ、2010年には初代モデルのVisian ICLが日本国内で厚生労働省の承認を受けました。当時のレンズはレンズ中心に穴がないモデルだったため、手術前に「虹彩切開術」という前処置が必要でした。

その後、レンズ中心に0.36mmの穴(センターホール)を開けることで虹彩切開術を不要にしたV4cモデル(通称EVO ICL)が登場し、2014年に日本でも承認されました。さらに光学径を6.1mmまで拡大したV5モデル(EVO+ ICL)、合併症抑制機能を盛り込んだイギリス製のプレミアムICLなどが次々と登場し、安全性・見え方の質ともに進化を続けています。

— ICL の発展の主な節目

ICL進化のタイムライン

  • 1986年:最初のICLレンズが開発される
  • 2010年:Visian ICL(初代モデル)が日本で承認
  • 2014年:センターホール付きのV4cモデル(EVO ICL)が日本で承認
  • 近年:V5モデル(EVO+ ICL)、プレミアムICLなど合併症抑制機能を備えた次世代モデルが登場

国内承認のICLレンズ8種類

日本国内で使用されているICLレンズは、実は全部で8種類あります。レンズを挿入する位置によって前房型と後房型に分類され、それぞれ製造国・素材・特徴が異なります。

前房型レンズ(オランダ製)

  • アルチザン ── 古くから使用される代表的なレンズ
  • アルチフレックス ── 折りたたみ可能な改良型
  • アルチプラス ── 老眼矯正機能がついたモデル

後房型レンズ(5種類)

  • EVO ICL®(アメリカ製)── コラマー素材を採用、長年の実績
  • プレミアムICL(イギリス製)── 合併症抑制機能を搭載
  • プレミアムICL Pro(イギリス製)── プレミアムICLの上位モデル
  • プレミアムICL Pro Max(イギリス製)── 最新の上位モデル
  • アイクリルレンズ(スイス製)── スイス製の後房型レンズ

後房型レンズの中でも、アメリカ製のEVO ICLはコラマー(コラーゲンとポリマーの複合素材)を使用し、それ以外の後房型レンズはハイブリッド・アクリルを採用しています。ハイブリッド・アクリルは白内障手術でも長年使用されてきた実績ある素材です。

新しく登場したレンズには、房水循環の最適化や眼圧上昇の抑制といった合併症の抑制機能が追加されており、より安全性に配慮した設計になっています。レンズの種類による違いについては、コラム記事「ICL手術で使用するレンズについて知ろう」で詳しく解説しています。

ICLとレーシックの違い(比較表)

視力回復手術として並んで検討されることの多いICLとレーシック。両者の違いを8つの軸で比較すると、それぞれの特性がよく分かります。

比較項目 ICL レーシック
手術方法角膜を削って屈折力を調整
角膜への影響削る
強度近視への対応角膜の厚さによっては不可
可逆性不可逆
近視の戻り起こることがある
ドライアイ術後に起こりやすい
手術時間片眼10〜15分
老眼への対応遠近両用レーシック

どちらを選ぶべきかは、目の状態(角膜の厚み・度数)や生活スタイル、将来の見え方をどう考えるかによって変わります。詳しくは「近視はICL、乱視はLASIK?その治療提案、本当にあなたのため?」でも考え方をご紹介しています。

ICL手術の流れ|5ステップ解説

ICL手術は両眼でも数分で完了する日帰り手術です。麻酔は点眼で行うため、注射の必要はありません。実際の手術の流れは以下の5ステップです。

01
点眼麻酔
点眼薬で麻酔。注射は不要です。
02
角膜切開
黒目と白目の境目を約2.5mm切開。
03
レンズ挿入
切開創から折りたたんだレンズを挿入。
04
レンズ固定
虹彩と水晶体の間にレンズを固定。
05
回復室で休息
術後は安静室で一定時間お休み。

手術当日に帰宅でき、翌日からの軽作業は可能です。詳しい術前検査・術後ケアの流れについては、別途「手術の流れ」のページで解説しています。

ICL手術の流れ

ICL手術の安全性

ICLは術式が確立された安全性の高い視力回復手術とされていますが、安全性を最大限に高めるためには、以下の3つのポイントを意識することが大切です。

1. 屈折矯正手術に精通した執刀医を選ぶ

眼科専門医と一口に言っても、緑内障、網膜疾患、角膜疾患など得意分野は様々です。ICL手術は屈折矯正という分野に分類される手術ですので、屈折矯正手術に精通した医師に執刀してもらうことが安心材料になります。執刀実績数や、トラブル時の対応体制も確認したいポイントです。

2. レンズのサイズが適切に選定されているか

ICLレンズには複数のサイズ展開があります。既製レンズ(4サイズ)と、オーダーメイドレンズ(13サイズ)では、患者様の目に合ったサイズを選べる幅が大きく異なります。サイズが合わないとレンズが目の中で回転したり、眼圧上昇のリスクが高まったりする可能性があるため、0.25mm刻みで選べるオーダーメイドのレンズを採用するクリニックが増えています

3. 適応条件をきちんと検査しているか

ICLは誰でも受けられる手術ではありません。年齢、近視・乱視の度数、前房深度、角膜内皮細胞数、白内障や緑内障の有無などを総合的に確認したうえで、適応かどうかを判断する必要があります。検査項目を絞った「短時間検査」だけで判断するクリニックには注意が必要です。詳しい適応条件は「ICLが受けられる人、受けられない人」をご覧ください。

よくある質問(FAQ)

ICLは何歳から受けられますか?
原則18歳以上が対象です。近視や乱視の度数が安定してから受けるのが望ましいため、若年層では度数が安定する18歳以降が目安となります。年齢の上限については、目の状態や白内障の有無を踏まえて医師が判断します。
ICLレンズは何年もちますか?
ICLレンズに使用期限はなく、目の中で長期にわたり安定して機能するように設計されています。万が一、生活環境の変化や目の状態の変化があった場合には、レンズを取り出して元の状態に戻すことも可能です。
ICLとレーシックはどちらがおすすめですか?
それぞれの目の状態によって最適な治療法は異なります。角膜が薄い方や強度近視の方はICLが適しているケースが多く、角膜の厚さが十分で軽度〜中等度近視の方はレーシックも選択肢になります。検査結果をもとに屈折矯正手術に精通した眼科専門医にご相談ください。
ICLで老眼も治せますか?
近年登場した3焦点モデルのプレミアムICLでは、近視・乱視に加えて老眼の改善にも対応できるようになりました。40歳以降の老眼が始まる世代の方にも視力回復の選択肢として広がっています。
SUMMARY

ICLは「角膜を削らない」次世代の視力回復手術

ICL(眼内コンタクトレンズ)は、目の中に小さなレンズを挿入することで近視・乱視を矯正する視力回復手術です。角膜を削らない・取り出しが可能・強度近視にも対応できるという特徴から、レーシックを受けられない方の選択肢として、また将来の柔軟性を重視する方の選択肢として、年々需要が高まっています。

ただし、レンズの種類や執刀医の技術、適応条件の見極めなど、術後の見え方を左右する要素は多くあります。納得できる視力回復を目指すためには、信頼できる屈折矯正手術専門のクリニックでじっくり相談することが大切です。